「扶」

白川静『常用字解』
「形声。音符は夫。説文に“左たすくるなり”とあり、扶持し、保護することをいう。金文の字形では、夫を傍らから手で支えている形で、会意の字のような表現になっている」

[考察]
形声も会意的に説くのが白川流である。だから「夫+手」で、夫を傍らから支えるという意味を読み取る。しかしこれではあまりにも俗説っぽい。だから形声を保留したのであろう。その場合、形声の説明原理がないので、説文を引用して左(=佐。たすける)の意味だとしたが、その理由は説明していない。
古典における扶の用例を見てみよう。
①原文:危而不持、顚而不扶、則將焉用彼相矣。
 訓読:危ふくして持せず、顚して扶(たす)けざれば、則ち将(はた)焉(いづく)んぞ彼の相を用ゐんや。
 翻訳:危ない時に支えず、転んだ時に助けないならば、補佐役なんか必要がない――『論語』季氏
②原文:山有扶蘇
 訓読:山に扶蘇有り
 翻訳:山にはこんもりした木がある――『詩経』鄭風・山有扶蘇

①は脇から支えて助ける意味、②は植物の枝葉などが広がって大きい意味で使われている。これを古典漢語では①biuag(呉音でブ、漢音でフ)という。これを代替する視覚記号しとして扶が考案された。
扶は「夫(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。夫は父・甫などと同源で、「大きく広がる」「大きい」というイメージがある(1579「夫」を見よ)。これは「平らに広がる」というイメージにも転化する(父をもとにした布にもこのイメージ展開がある)。手の指を平らに広げて計った長さを扶寸というように、扶には「平らに広がる」というコアイメージがある。手のひらを平らに広げて、人の両脇にあてがう動作を扶という。これが上の①で実現される意味である。また、「平らに大きく広がる」というイメージがそのまま具体的文脈に現れることがある。これが②の意味である。