「赴」

白川静『常用字解』
「形声。音符は卜。説文に“趨おもむくなり” とあり、“おもむく、ゆく、むかう”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では卜から会意的に説明できず字源を放棄している。
赴は古典に次の用例がある。
 原文:天下之欲疾其君者、皆欲赴愬於王。
 訓読:天下の其の君を疾(にく)まんと欲する者は、皆赴きて王に愬(うつた)へんと欲す。
 翻訳:自分の君主を憎みたいと思う世界中の人が、王様のもとに訴えに駆けつけて参りましょう――『孟子』梁恵王上

赴は急いで駆けつけるという意味で使われている。これを古典漢語ではp'iug(呉音・漢音でフ)という。これを代替する視覚記号しとして赴が考案された。
赴は「卜(音・イメージ記号)+走(限定符号)」と解析する。卜はひび割れの形で、ひび割れの形によって占いをしたことから「うらない」の意味がある。しかし実体よりも形態や機能に重点が置かれ、「ぽくっと急に割れる」「急に起こる」というイメージを示す記号となる。卜は急な動作などを表す言葉 を作る。走は走ることや進むことと関係があることを示す限定符号。したがって赴は急に走っていく状況を示している。この意匠によって、目的地を目指して急いで駆けつけることを意味するp'iugを表記する。