「譜」

白川静『常用字解』
「形声。音符は普。普は二人並んで誓うことをいい、みな、あまねしの意味がある。玉篇に“属なり” とあり、系属(つらなること)の者を図表にしたもので、系譜をいう」

[考察]
「二人並んで誓う」ことからなぜ「系属の者を図表にしたもの」という意味が出るのか、まったく理解し難い。不十分な字源説である。
譜は比較的遅く(漢代以後)現れる字で、次のような用例がある。
 原文:諸侯譜、其下益損之。
 訓読:諸侯の譜、其の下に之を益損す。
 翻訳:諸侯の譜の下にそれ[諸侯の名や数]を増減させている――『史記』漢興以来諸侯年表
譜は系統的に並べて記した図表の意味で使われている。
譜はもとは諩と書いた。「竝(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。竝は「▯-▯の形に並ぶ」というイメージがあり、「▯-▯-▯-▯の形に次々に並ぶ」というイメージに展開する。竝を普に取り換えたが、普にもこのイメージがある(1593「普」を見よ)。言は言葉や文字と関係があることを示す限定符号。したがって譜は事柄を▯-▯-▯-▯の形に次々に並べて見やすくした書き物を示す。この意匠で上記の意味をもつ語を表記する視覚記号とした。
「▯-▯-▯-▯の形に次々に並ぶ」というコアイメージから別の意味にも展開する。音楽の調子を記号で記して▯-▯-▯-▯の形に配列したものが楽譜である。またそれを構成する一つ一つの記号が音符である。