「柄」

白川静『常用字解』
「形声。音符は丙。丙は器物の台座の形で、兵器の矛をその上に立てたりするのに使う。器物の“え、つか” の意味に用いる」

[考察]
「え」とは器物から出ていて握る部分である。台座ではない。丙(台座の形)からなぜ「器物のえ」という意味になるのか、不自然である。
意味は字形から出るものではなく、言葉の使われる文脈から出るものである。まず古典の文脈を調べて意味を確かめ、それから字源を考えるべきである。
 原文:維北有斗 西柄之揭
 訓読:維(こ)れ北に斗有り 西柄を之(こ)れ掲(かか)ぐ
 翻訳:北にあるのはひしゃく星 西に柄を上げている――『詩経』小雅・大東
柄は明らかにひしゃくなど器物の「え」の意味で使われている。これを古典漢語ではpiăng(呉音でヒヤウ、漢音でヘイ)という。これを代替する視覚記号しとして柄が考案された。
柄は「丙(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。丙の字源については諸説紛々だが、尻の方で↲↳の形に二股に分かれていることを示す象徴的符号と解する(1629「丙」を見よ)。この意匠によって「↲↳の形や←→の形に左右に分かれ出る、張り出る」というイメージを示す記号となる。木は木や材木と関係があることを示す限定符号。したがって柄は本体から←→の形に張り出した木製の取っ手を暗示させる。この図形的意匠によって、上記の「え」の意味をもつpiăngを表記する。