「変」
正字(旧字体)は「變」である。

白川静『常用字解』
「会意。䜌ばんと攴とを組み合わせた形。言は神への誓いのことばで、その誓いの言葉を入れた器の左右に糸飾りをつけた形が䜌。攴にはうつの意味があるから、誓いのことばの入った器をうつことを變といい、神への誓いを破り、改めるの意味となる」

[考察]
字形の解釈にも意味の取り方にも疑問がある。まず言が「神への誓いのことば」という意味だというが、こんな意味は言にない。また䜌が「その(神の)誓いの言葉を入れた器の左右に糸飾りをつけた形」というが、「神の誓いを入れた器」とは何のことか。誓いの言葉は聴覚言語であろう。これを器に入れるとはどういうことか。聴覚言語を文字化して布や木簡に書写して器に入れるのか。こんなものが存在するだろうか。何のために器に糸飾りをつけるのか。これも分からない。また變は「誓いのことばの入った器をうつ」こと(つまり意味)だというがこんな行為があるだろうか。その意味から「神への誓いを破り、改める」の意味になったというが、變にこんな意味があるだろうか。意味の展開に必然性がない。
變の使い方(すなわち意味)を古典の用例から確かめるのが先決である。
 原文:迅雷風烈必變。
 訓読:迅雷風烈には必ず変ず。
 翻訳:[孔子は]疾風迅雷のような自然の異変には必ず態度を変えた――『論語』郷党
變は本来とは違った事態・状態になる(かわる・かえる)という意味で使われている。これを古典漢語ではpian(呉音・漢音でヘン)という。これを代替する視覚記号しとして變が考案された。
變は「䜌ラン(音・イメージ記号)+攴(限定符号)」と解析する。䜌(ランとレンの二音がある)については『説文解字』に「乱なり。一に曰く治なり。一に曰く絶えざるなり」とある。『漢語大字典』などでは乱れる、治める、連続して絶えずの三つの意味を記述している。䜌はこれらの意味を同時に含むと考えてよい。連続して絶えないものはきりやけじめがつかない状態であり、ずるずるともつれて乱れた状態である。この状態にきりやけじめをつけようとするのが治めることである。乱に「みだれる」と「おさめる」の二つの意味があるのと似ている。䜌は乱と同源の語で、「もつれて乱れる」というイメージを表す記号となりうる。
字源を見てみよう。䜌は「絲(いと)+言」と解剖する。言は連続した音声を区切って意味をもたせるもの、すなわち「ことば」である。言には「はっきりと区切りをつける」というイメージがある(489「言」を見よ)。このイメージは「けじめをつける」というイメージにも展開する。絲(=糸)は連続したものである。連続した糸に区切りやけじめをつけようとするが、けじめがつかずずるずると続いて絶えない状態になることが䜌の図形的意匠である。『説文解字』に注釈をした段玉裁(清朝の言語学者)は「糸を治むるに紛し易く、糸また絶えざるなり」と説明している。䜌の図形的意匠から、「もつれて乱れる」と「ずるずると続いて絶えない」という二つのイメージが読み取れる。これらは恋・蛮・湾・巒・攣などのコアイメージとなっている。變も同じである。
䜌は「もつれて乱れる」「もつれてけじめがつかない」というイメージ。攴は動作・行為と関係があることを示す限定符号。したがって變はある事態がもつれてけじめがつかない状況を暗示させる図形である。この意匠によって、本来とは違った(正常ではなI)事態になることを表す。これが変化・異変の変である。