「遍」

白川静『常用字解』
「形声。音符は扁。扁は片開きの編み戸の形。扁はかたよる、一方の意味であるが、歩く、行くの意味のある彳・辵を加えた徧・遍は“あまねし(広くゆきわたっている)、ゆきわたる”の意味に用いる」

[考察]
扁は「戸+冊」に分析できるのに、「片開きの編み戸」の象形文字には見えない。また扁に「かたよる、一方」という意味はない。なぜ「かたよる、一方」の意味から「ゆきわたる」 の意味になるのか。「片寄る」と「行き渡る」は意味が反対ではないか。
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では扁から会意的に説明できているとは言い難い。不十分な字源説である。
遍は古典に次の用例がある。
 原文:議寡人者遍天下。
 訓読:寡人を議する者天下に遍(あまね)し。 
 翻訳:私のこととやかく言う者が世界中にいっぱいだ――『戦国策』燕策
遍は全体にくまなく行き渡るという意味で使われている。これを古典漢語ではpian(呉音・漢音でヘン)という。これを代替する視覚記号しとして遍が考案された。
遍は「扁(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。扁については1650「偏」で述べた通り、「平らに広がる」というイメージがある。中心から広がっていく空間を想定する。広がりの終点に視点を置いたのが偏で、「中心からそれて一方にかたよる」という意味が実現された。一方、広がりの過程に視点を置くと「全体に行き渡る」というイメージが生まれる。辵は進行・歩行に関係があることを示す限定符号。したがって遍はすみずみまでくまなく行く状況を示す。この意匠によって、上記の「全体にくまなく行き渡る」という意味をもつpianを表記する。