「編」

白川静『常用字解』
「形声。音符は扁。扁は片開きの編み戸の形。説文に“簡を次するなり” とあって、竹簡・木簡を順次に綴じてゆくこと、一片ずつを編んでゆくことをいう」

[考察] 
扁は「戸+冊」の会意文字であって、「片開きの編み戸」の象形文字ではない。扁にそんな意味はない。また、「片開きの編み戸」からなぜ「竹簡・木簡を順次に綴じてゆく」という意味が出るのか、よく分からない。
白川漢字学説は形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。本項では扁から会意的に説明できているとは言い難い。字源説として不十分である。
古典の用例から編の意味を確かめるのが先になされるべきことである。字源はその後である。
①原文:法者編著之圖籍、設之於官府、而布之於百姓者也。
 訓読:法なる者は之を図籍に編著し、之を官府に設け、而して之を百姓に布(し)く者なり。
 翻訳:法はこれを書き著して書籍に編集して役所に備え、それから人民に公布すべきである――『韓非子』難三
②原文:以羽爲巢而編之以髮。
 訓読:羽を以て巣を為りて之を編むに髪を以てす。
 翻訳:[その鳥は]羽で巣を造り、編むのに髪を用いる――『荀子』勧学

①は紐で竹簡・木簡をつないで書物にする意味、②は糸や紐を綴じ合わせる(あむ)の意味で使われている。これを古典漢語ではpān (呉音・漢音でヘン)という。これを代替する視覚記号しとして編が考案された。
編は「扁(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。扁については1650「偏」で述べたが、もう一度振り返る。
扁は「戸+冊」に分析できる。戸は薄い板をつないで作ったもの。冊は薄く平らに削った竹簡や木簡を綴ったもの。戸も冊も薄く平らなものをつないだものだが、戸はイメージだけを取り、冊はイメージ記号と限定符号を兼ねると見る。だから「戸(イメージ記号)+冊(イメージ補助記号/限定符号)」と解析する。限定符号とは意味領域と関わることを示す働きのほかに、図形的意匠作りの場面設定の働きもある。竹簡・木簡を綴る場面、つまり文字を書いた札を編集する場面が設定される。かくて扁は薄く平らな竹簡・木簡を綴る情景と解釈できる。ただし竹簡・木簡を綴るという意味は編で実現させ、扁は「薄く平ら」という意味を表すのである。(以上、1650「偏」の項)
以上で編の字源の説明は十分だろう。