「峰」

白川静『常用字解』
「形声。音符は夆。夆は夂と丰ほうとを組み合わせた形で、夂は下向きの足あとの形で、くだるの意味がある。丰は上に伸びた木の枝の形で、その枝は神が憑りつくところであるから、神が降り、憑りつく木を夆という。そのような木のある山を峰という」

[考察]
形声の説明原理がなく会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。夆(神が降り憑りつく木)+山→そのような木のある山という意味を導く。
字形の解剖にも意味の取り方にも疑問がある。夂に「くだる」という意味はないし、丰に「神が憑りつく木の枝」という意味はない。また夆に「神が降り、憑りつく木」という意味はないし、峰に「神が降り、憑りつく木のある山」という意味はない。間違った字形の解釈 からあり得ない意味が導かれた。
意味とは一体何なのか。「言葉の意味」であることは言語学の常識であろう。意味は言葉の使われる文脈から判断される。それ以外に意味の出所はない。端的に言って意味とは言葉の使い方である。
峰は漢代以後に登場する語で、逢・縫・鋒などとの同源意識から生まれた語である。
峰は「夆(音・イメージ記号)+山(限定符号)」と解析する。夆は「丰(音・イメージ記号)+夂(限定符号)」と分析する。丰については1675「奉」で説明した。再掲する。
丰は草木の枝葉が上に向かって茂っている形である。『説文解字』に「草盛んなること丰丰たり」とある。草木という実体に重点があるのではなく、茂った状態に重点がある。それは⌒の形や∧の形に盛り上がった形態である。両側からせり上がるように↗↖の形や∧の形に盛り上がるというイメージでもある。 丰は「↗↖の形や∧の形に上げる」というイメージを示す記号となる。(1675「奉」の項) 
丰は「↗↖の形や∧の形に盛り上がる」というイメージを表す記号である。夂は下向きの足の形であるが、足の動作に関係があることを示す限定符号に用いられる。夆は↗の方向から歩いてきた足が、↖の方向から歩いてきた足と∧の形の頂点で出会う情景である。これは逢(あう)の原字である。矛や槍などの尖った先を鋒(ほこさき)という。これは頂点が∧の形をしている。同じように山の頂点が∧の形をなしている所を峰(みね)というのである。