「坊」

白川静『常用字解』
「形声。音符は方。方は方形に区画するの意味がある。城内の街路の区画は条里によって区分され、その一区画を坊という」

[考察]
方は方形の意味がある。しかし白川漢字学説では方は「横に渡した木に、死者をつるした形」で、外国の意味とし、これから方角の意味が出たとしており、なぜ「方形」の意味、あるいは「方形に区画する」 が出るのか明らかではない。坊・房・芳・訪には白川学説(方の呪禁説)が適用されていない。明らかに不統一であり、首尾一貫しない。
方を「死者をつるした横木」と解釈してはすべての方のグループ(諧声語群)を説明できない。方を柄についた耒(すき)の形と見る徐中舒(現代中国の文字学者)の説を採ればすべて説明できる。ただし実体に囚われると何も説明できない。形態に重点を置いてイメージを取るのである。それは「←→の形に(左右に)張り出す」というイメージである。左右と上下を組み合わせると「(中心から)四方に張り出す」「四方に延び出る」というイメージになる。これが方角の方である。左右上下の線は四角形を作る。これから四角形(方形)の意味が生まれる。
かくて坊は「方(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。方は左右上下に区切った形、方形のイメージである。土は土地と関係があることを示す限定符号。したがって坊は方形に区切られた街路(通り、ちまた、まち)を表している。 
区画されたまちの意味から、換喩(隣接性)の比喩によって、人が住む場所(住居、部屋)の意味となった。日本では特に僧侶の住まいの意味に用い、再び換喩によって、そこに住む人(僧侶)の意味となった。これが坊さんである。坊さんは頭に毛がないので、坊主頭という俗語が生まれ、今度は類似性の比喩によって、丸坊主の子ども、「坊っちゃん」となった。