「膨」

白川静『常用字解』
「形声。音符は彭。彭は壴(鼓の形)と彡(音や光・形などの美しいことを示す記号のような文字)とを組み合わせた形で、鼓の音が鳴りひびくことをいい、さかん、みちてさかんの意味がある。大きくふくれあがることを膨大といい、内部からふくれあがることを膨脹という」

[考察]
「満ちて盛ん」という意味からなぜ「大きくふくれあがる」という意味になるのか、はっきりしない。意味展開の説明があいまいである。また「月」の説明がない。
膨は漢代以後に出現する字である。次のような用例がある。
 原文:腹大滿膨膨。
 訓読:腹大いに満ちて膨膨ホウホウたり。
 翻訳:腹がいっぱいに満ちてパンパンにふくれる――『素問』至真要大論
膨は腹が張ってふくれる意味で使われている。これを当時の言葉でbăng(呉音でビヤウ、漢音でハウ)という。これを代替する視覚記号しとして膨が考案された。
膨は「彭(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。彭は「壴(太鼓の形)+彡(音声が分かれ出ることを示す象徴的符号)」を合わせて、太鼓を叩いている情景を想定した図形。音声が出るのは太鼓の皮である。この部分に焦点を当てれば、「皮がいっぱいに張り詰める」というイメージを表すことができる。肉は肉や身体と関係がることを示す限定符号。したがって膨は腹の皮がパンパンに張ってふくれる状況を暗示させる。腹の皮は痩せるとたるみが生じるが、太ると張り詰めるものである。「ふくれる」と「張り詰める」は連合するイメージなので、「張り詰める」のイメージの記号でもって「ふくれる」の意味をもつ言葉を造語したのである。