「妹」

白川静『常用字解』
「形声。音符は未。説文に“女弟なり”とあり、“いもうと”をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。しかし本項では未から会意的に説明できていない。字源を放棄している。
古典漢語では、兄弟姉妹を表す語は、成長の具合や序列の上下関係から発想され造語されている。兄は弟よりも比較的大きく成長しているので「大きい」というイメージで名づけられ、弟は序列関係で「下の方に下がる」というイメージで名づけられた(417「兄」、1314「弟」を見よ)。一方、姉は弟と同じく序列の位置関係から「いちばん上に出る」というイメージで名づけられた(700「姉」を見よ)。では妹はどうか。
妹は「未(音・イメージ記号)+女(限定符号)」と解析する。未は木の上に伸び出た細かい枝を描いた図形である。ただし実体に重点があるのではなく形態に重点がある。こずえならば「上に出る」というイメージだが、そんなイメージを表すのではなく、形態的特徴から「まだ伸び切っていない」「小さくてよく見えない」というイメージを表す記号とするのである。したがって妹は小さくてまだ十分に成長しきっていない女を暗示させる。この意匠によって「いもうと」を意味する古典漢語muəd(呉音でメ・マイ、漢音でバイ)を表記した。
「いもうと」は姉と比べて成長が遅い(体が小さい)というイメージから命名された。造語の仕方は兄―妹、姉―弟がそれぞれ対応している。