「膜」

白川静『常用字解』
「形声。音符は莫。莫に天幕やとばりのように、はりめぐらすものの意味がある。体の部分を示す月(肉)を加えて、肉をおおっている、また肉の間にある“薄皮、まく” をいう」

[考察]
莫に「天幕やとばりのように、はりめぐらすもの」の意味があるというが、そんな意味は莫にない。幕にはある。白川は莫から幕を会意的に説明できていない(1736「幕」を見よ)。本項でも莫から膜を説明したとはいえない。
白川漢字学説には形声の説明原理がない。言葉という視点が欠けているから当然であろう。形声の説明原理とは言葉の深層構造へ掘り下げ、コアイメージを捉えて、意味を説明する方法である。
膜は次のように使われている。
 原文:脾與胃以膜相連耳。
 訓読:脾と胃は膜を以て相連なるのみ。
 翻訳:脾と胃は膜でつながっているだけだ――『素問』太陰陽明論
膜は器官を覆って保護する組織の意味で使われている。これを古典漢語ではmak(呉音でマク、漢音でバク)という。これを代替する視覚記号しとして膜が考案された。
膜は「莫(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」と解析する。莫は「隠れて見えない」「覆いかぶせる」というイメージがある(1736「幕」を見よ)。肉は肉や身体と関係があることを示す限定符号。したがって膜は上から覆いかぶせて中のものを見えなくする薄皮を暗示させる。この意匠によって上記にある意味をもつmakを表記した。