「眠」

白川静『常用字解』
「形声。音符は民。民は眼睛を突き刺されて視力を失った者をいう。視力を失った状態は眠っている状態に似ているので、眠は“ねむる、ねる、ねむい”の意味に用いる」

[考察]
形声の説明原理がなく、会意的に字形から意味を導くの白川漢字学説の方法である。民(目を突き刺されて視力を失った者)+目→ねむるという意味を導く。
視力を失った状態は「目が見えない」ということであって、必ずしも「ねむる」とは関係がなり。視力を失った状態から「ねむる」への意味展開は必然性がない。
『釈名』(漢代の語源辞典)では「眠は泯なり。知無く泯泯たり(知覚がなく暗い)」と語源を説いている。目がくらんで見えない状態を眩泯・眩眠・眩瞑(ゲンメン)という。眠・泯・瞑は同源の語で「見えない」というイメージをもつ言葉である。
眠は「民(音・イメージ記号)+目(限定符号)」と解析する。民は目を針で刺した図形で、「見えない」というイメージを示す記号である(1750「民」を見よ)。目は目や視覚と関係があることを示す限定符号。したがって眠は目を閉じて見えない(知覚・意識がない)状態になる様子を暗示させる。この意匠によって「ねむる」の意味をもつ古典漢語menを表記した。