「迷」

白川静『常用字解』
「形声。音符は米。説文に“或まど(惑)ふなり”とあり、玉篇に“乱るるなり”とあって、惑乱することをいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では米から会意的に説明できず、字源を放棄している。
迷は語史が古く次の用例がある。
 原文:天子是毗 俾民不迷
 訓読:天子を是れ毗(たす)け 民をして迷はざら俾 (し)む
 翻訳:天子様をお助けして 民を途方に暮れさせぬようにしてあげる――『詩経』小雅・節南山
迷は行き先が分からなくなる意味で使われている。これを古典漢語ではmer(呉音でマイ、漢音でベイ)という。これを代替する視覚記号しとして迷が考案された。
迷は「米(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。米は「こめ」の意味だが、実体に重点があるのではなく形態に重点がある。米は小さな粒状をなすから、「細かく分散する」というコアイメージがある。このイメージは「細かくて見分けがつかない」というイメージにも転化する。辵は進行や道と関係があることを示す限定符号。したがって迷は道が細かく分かれていて、どっちに行っていいか分からなくなる状況を示している。この意匠によって、進むべき道(行き先)が分からなくなることを表す。