「耗」

白川静『常用字解』
「形声。音符は耕こうを省略した耒。また毛の音で読むこともある。耗は田野の荒れる意味であろう。耗土とは荒れてやせた土地をいう。耗尽・耗損・消耗のように、“へる、へらす、なくなる”の意味に用いる。モウは慣用音である」

[考察]
字形の解剖にも意味の取り方にも疑問がある。
耕を省略した耒(ライと読む)が音符とは奇妙である。耕では耒は限定符号である。限定符号を音符とすることは考えられない。
耒は「すき」の意味で、耕は「たがやす」の意味である。だから耗を「田野の荒れる」の意味とした。しかしなぜ「荒れる」の意味になるのか、よく分からない。また「田野が荒れる」の意味からなぜ「へる」の意味になるのか、これも分からない。
また、毛がどんな働きをするかの説明がない。結局字源の放棄である。
耗はもともと秏と書かれた。秏が本字である。「毛(音・イメージ記号)+禾(限定符号)」と解析する。毛は獣の体表の「け」を描いた図形である(1770「毛」を見よ)。毛という実体ではなく形態に着目してイメージが取られる。毛は小さく細いものである。秋毛や毛頭という言い方があるように「わずか」の意味もある。「小さい」「細い」のイメージから、「見えない」「無い」というイメージにも転化する。禾は稲や穀物と関係があることを示す限定符号。したがって秏は稲(米)を搗いた結果、すり減って小さくなる状況を暗示させる。この意匠によって、すり減って少なくなる意味、また、尽きて無くなる意味を表す。消耗はこの意味から来ている。
土地がすり減って痩せるという意味も生じたため、限定符号を禾→耒(すき)に替えて、耗という字体に変わった。耗はコウとモウの二音がある。コウ→モウは音の変化である。