「油」

白川静『常用字解』
「形声。音符は由。由はもとの形はそらく卣で、瓢簞の類の実が熟して溶け、殻の中がからっぽになった形である。熟した実が油のような状態になったものを油といい、“あぶら、あぶら状のもの”の意味となる」

[考察]
由の字源説に疑問があることは1790「由」で述べた。由を卣に置き替えるのも疑問だが、卣を「瓢簞の類の実が熟して溶け、殻の中がからっぽになった形」と見るのも根拠がない。
字源説がおかしいから、意味の解釈もおかしい。瓢簞の実が溶けたのが油のように見えるのであろうか。これから「あぶら」という意味が生まれたのであろうか。
意味とは「言葉の意味」であって字形から出るものではない。白川漢字学説には言葉という視座がないから、字形から意味を導くが、その導き方は往々恣意的で、合理性がない。
古典における油の用例を見る。
①原文:身汗如油。
 訓読:身汗して油の如し。
 翻訳:体にあぶらのような汗が出る――『傷寒論』弁脈法
②原文:天油然作雲。
 訓読:天、油然として雲作(おこ)る。
 翻訳:空に雲がもくもくと湧き起こる――『孟子』梁恵王上

①は液体性のあぶらの意味、②はするすると滑って通りがよい意味で使われている。
①の文献は漢代である。「あぶら」の意味は先秦の古典にないから、漢代以後に現れるようである。②の文献が古いから、②の意味が最初であった可能性がある。
油は「由(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。由については1790「由」で述べたので繰り返さない。由は「ある所・範囲を通て出てくる、通り抜ける」というコアイメージを表す記号である。水などがするすると(スムーズに)通り抜けるというのが油の図形的意匠である。②では雲が現れて空のある範囲を通っていく状態を油然と形容している。
「スムーズに通り抜ける」というイメージから、滑らかに通りのよい液状のあぶらという意味が派生する。ちなみに固体のあぶらは脂・膏という。