「郵」

白川静『常用字解』
「会意。垂と邑とを組み合わせた形。垂は草木の花や葉が垂れ下がる形で、辺陲の地をいう。説文に“境上に書を行るの舎なり”とあり、辺境に文書を送るための“宿場”をいう」

[考察]
「草木の花や葉が垂れ下がる形」と「辺陲の地」がどういう関係なのか、よく分からない。これは垂の意味なのか、郵の意味なのかも分からない。「辺境に文書を送るための宿場」は郵の意味であろう。結局「垂+邑」でなぜ「辺境に文書を送るための宿場」という意味になるのか、さっぱり分からない。
古典で郵がどのように使われているか見るを見る。
 原文:德之流行、速於置郵而傳命。
 訓読:徳の流行するは、置郵して命を伝ふるよりも速し。 
 翻訳:徳が伝わるのは飛脚で伝令を伝えるようりも速い――『孟子』公孫丑上
郵は飛脚で文書を伝送する中継所(宿場)、また、飛脚で文書を伝送するという意味で使われている。これを古典漢語ではɦiuəg(呉音でウ、漢音でイウ)という。これを代替する視覚記号しとして郵が考案された。
郵は「垂(イメージ記号)+邑(限定符号)」と解析する。垂は草木の枝葉が垂れ下がる図形で、「上から下に↓の形に垂れ下がる」というイメージを示す記号である。これは垂直方向だが、視点を水平軸に換えると、「→の形に横の方向に段々と下がっていく」というイメージになる。中央を高い所と見て、地方の方へ下がっていくというイメージにも転じる。垂は「垂れ下がる」という意味のほかに、中央から段々と下がっていく末端の所(遠い辺境)という意味もある。邑は村や町などと関係があることを示す限定符号。字形から意味を引き出すと中央から離れた辺境の村という意味になってしまうが、そうではなく、飛脚便によって中央から地方へ文書を転々と送る宿場という意味を暗示させるのである。「垂+邑」はきわめて舌足らず(情報不足)な図形である。しかし意味は上記の『孟子』にある通りである。
古代中国では郵便が制度化されていて、馬で文書などを伝送する中継所(宿場)を駅といい、飛脚による中継所を郵といった。英語のpostは宿場→早馬・飛脚→郵便という意味になったという(『Eゲイト英和辞典』)。郵はこの転義とよく似ている。