「葉」

白川静『常用字解』
「形声。音符は枼よう。枼は木に新しい枝が三本伸びている形。その枝の上のものを葉といい、“木んは、は”の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。 枼(木に新しい枝が三本伸びた形)→木の枝の上のものという意味を導く。枼が枝の形ならば、「えだ」の意味になりそうなものだが、なぜ「は」の意味になるのかよく分からない。
字形から意味を導くのは不合理である。意味とは「言葉の意味」であって。言葉に内在する概念だからである。言葉が具体的文脈で使われ、その使い方が意味である。 葉は次のような文脈で使われている。
 原文:桃之夭夭 其葉蓁蓁
 訓読:桃の夭夭たる 其の葉蓁蓁たり
 翻訳:桃は若いよ 葉は生い茂る
古典漢語では草木の「は」をdiap(yiap)(呉音・漢音でエフ)という。これを代替する視覚記号しとして葉が考案された。
『説文解字』に「葉は薄なり」とあり、薄いものというイメージで捉えられた。また古人は葉・牒・ 鍱・䈎などは「薄いもの」という意味があると指摘している(段玉裁『説文解字注』)。このような同源意識を学問的に深めたのが藤堂明保である。藤堂は枼のグループ全体(葉・蝶・諜・鰈など)が、渉・閃・帖・淡・談・囁・譫などと同源の単語家族を構成し、TAP・TAMという音形と、「薄っぺら」という基本義があるとした(『漢字語源辞典』)。
このように「薄い」というイメージをもつ存在や現象がTAP・TAMと類似する音構造の言葉で名づけられた。草木の「は」はこのような存在の一つである。
語源を知った上で字源を見る。葉は「枼(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」と解析する。枼は「世+木」に分析できるが、甲骨文字や金文では枼の全体が象形文字で、木の上に葉のある情景を描いている。 枼という記号は草木の「は」から発想されたものである。だから「は」の形態的イメージから「薄い」というイメージを表すことができ、葉だけではなく、薄い羽をもつ昆虫である蝶や、扁平な姿をした魚である鰈(カレイ)はなど、「薄い」というイメージをもつ存在や現象に対して、枼の記号が用いられるのである。