「竜」
正字(旧字体)は「龍」である。

白川静『常用字解』
「象形。頭に辛字形の冠飾りをつけた蛇身の獣の形。“たつ、りゅう”の意味に用い、古代の伝説上の、不可思議な力を備えた動物をいう。鳳と同じように、冠飾りをつけているのは聖獣のしるしである」

[考察]
誰が考えても龍はリュウの形だから「りゅう」の意味と言えるだろう。これは同語反復のようなもの。龍はリュウの意味だと予め分かっているからこんなことが言える。意味が分からないで、字形だけから龍がリュウだと分かるだろうか。蛇など、何らかの爬虫類ではないかと推測できるだけだろう。字形から意味を読み取るのはあいまいさがつきまとう。これはすべての漢字に言えることである。
歴史的、論理的に漢字を見る必要がある。まず言葉が先にあり、その後でそれを表記する文字が生まれた。漢字が出現する前に漢語があった。リュウを古典漢語ではliungと言ったであろうことはさまざまな文献から推測される。これを代替し再現させる龍という文字は初期の古典に頻出する。次はその一例。
①原文:亢龍有悔。
 訓読:亢竜悔い有り。
 翻訳:天に上がり過ぎた竜は後悔する――『易経』乾
②原文:龍盾之合
 訓読:竜盾を之(こ)れ合す
 翻訳:竜を描いた盾を合わせて立てる――『詩経』秦風・小戎

①②とも想像上の動物であるリュウの意味である。
甲骨文字にも、後の龍に当たるであろうと推測される文字が存在するが、これは固有名詞に使われているため意味は分からない。字形だけを見ると、頭に異様なとさか状のものを載せ、蛇のように身をくねらせた図形に描かれている。文字学者はこれを後世の龍の原形だろうと推測している。否定はできないが、字の構造が龍とは少し違う。前者は全身を縦に描いているが、龍は左と右に分かれている。左には月(肉)が含まれているから頭と胴体の一部で、右は長々とくねったしっぽの部分であろう。龍の字形からはこれぐらいの情報しか読み取れない。