「粒」

白川静『常用字解』
「形声。音符は立。説文に“糂つぶなり”とあり、米つぶをいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では立から会意的に説明できず、字源を放棄している。白川漢字学説の字源説の体をなしていない。
まず古典における粒の用例を見る。
①原文:七日不嘗粒。
 訓読:七日粒を嘗めず。 
 翻訳:七日間飯つぶを食べなかった――『呂氏春秋』任数
②原文:烝民乃粒。
 訓読:烝民乃ち粒リュウす。 
 翻訳:万民は飯が食えるようになった――『書経』益稷

①は米つぶの意味、②は穀物の飯を食べる意味で使われている。これを古典漢語ではliəp(呉音・漢音でリフ)という。これを代替する視覚記号として粒が考案された。
粒は「立リュウ(音・イメージ記号)+米(限定符号)」と解析する。立については1865「立」で述べたように「▯-▯の形に並ぶ」というイメージがある。▯-▯が連鎖すると▯-▯-▯-▯の形、すなわち「点々と並ぶ」「そろったものがいくつも並ぶ」というイメージになる。米は穀物の実(こめ)に関係があることを示す限定符号。したがって粒は点々とそろって並ぶ米つぶを暗示させる。小さな一個のつぶではなく、穀物を脱穀した後にそろったものが点々と並ぶ実の状態から発想して、米つぶをliəpといい、粒と表記するのである。