「僚」

白川静『常用字解』
「形声。音符は尞。尞は組んだ木を焚く形で、警備するときなどに燃やす篝火かがりび、庭燎(にわび)をいう。尞は燎(にわび、やく)のもとの字である。篝火を焚いて守る神聖な建物を寮(役所)、その役所に勤める人を僚といい、“つかさ、やくにん、あいやく、同僚”の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。尞(篝火)+人→篝火を焚いて守る神聖な建物(寮、役所)に勤める人という意味を導く。
僚に「篝火をたいて守る神聖な役所に勤める役人」という意味があるだろうか。これは字形の解釈であろう。字形的解釈をストレートに意味としている。図形的解釈と意味を混同するのは白川漢字学説の全般的特徴である。
古典における僚の使い方を見る。
①原文:私人之子 百僚是試
 訓読:私人の子 百僚に是れ試(もち)ゐる
 翻訳:自分の家来たちを 多くの官僚に取り立てる――『詩経』小雅・大東
②原文:月出皎兮 佼人僚兮
 訓読:月出でて皎たり 佼人僚たり
 翻訳:月が出て光あざやか 美人の顔はくっきり浮かぶ――『詩経』陳風・月出

①は一緒に仕事をする仲間や役人の意味、②は顔立ちがはっきりして美しいという意味で使われている。これを古典漢語ではl ɔg(呉音・漢音でレウ)という。これを代替する視覚記号として僚が考案された。
僚は「尞(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。尞については『説文解字』に「柴もて天を祭る」とある。柴を燃やす情景である。これは白川のいう通り燎(篝火)の原字と考えてよい。しかし篝火という実体に重点があるのではなく、その形態に重点がある。柴や薪に視点を置くと「▯-▯-▯-▯の形に次々に並び連なる」というイメージ、火の粉に視点を置くと「四方に発散する」というイメージ、また「光が発散して明るい」というイメージを表すことができる。前者のイメージから同列に連なる仲間という意味(上の①)が実現される。また「明るい」というイメージから上の②の意味が実現される。明瞭の瞭にこのイメージがはっきり生きている。