「礼」
旧字体は「禮」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は豊。豊は醴のもとの字で、醴は説文に“酒の一宿にして孰せるものなり”とあり、あまざけの類をいう。儀礼のときには醴酒を用いることが多く、醴酒を使用して行う儀礼を禮といい、“れいぎ、いや、うやまう”の意味に用いる」

[考察]
禮とは「醴酒を使用して行う儀礼」の意味だという。儀礼の礼とは何かの説明に「~をする儀礼」というのは同語反復で、礼の説明になっていない。いろいろな儀礼があるが甘酒を用いる儀礼と言っているだけである。示についての言及もない。不十分な字源説である。
形声の説明原理とは言葉の深層構造へ掘り下げ、コアイメージを捉えて意味を説明する方法である。白川漢字学説には言葉への視点がないから形声を説明する原理もない。だから会意的方法を取らざるを得ない。これでは字形をなぞるだけの解釈になってしまう。「あまざけを使用して行う儀礼」は字形の解釈に過ぎない。図形的解釈と意味を混同するのは白川漢字学説の全般的特徴である。
まず古典における禮の用例を見る。
①原文:相鼠有體 人而無禮
 訓読:鼠を相(み)れば体有り 人にして礼無し
 翻訳:ネズミには体があるけれど 人間なのに礼がないなんて――『詩経』鄘風・相鼠
②原文:道之以德、齊之以禮、有恥且格。
 訓読:之を道(みちび)くに徳を以てし、之を斉(ととの)ふるに礼を以てすれば、恥有りて且つ格(ただ)し。
 翻訳:人民を徳で導き、礼で整えるなら、人民は廉恥を知って正しくなる――『論語』為政

①はきちんと順序よく整った作法の意味、②は社会的規範・慣習の意味で使われている。これを古典漢語ではler(呉音でライ、漢音でレイ)という。これを代替する視覚記号しとして禮が考案された。
禮の語源については「禮は體なり」「禮は履なり」「禮は理なり」などがある。理は「筋道が通る」というイメージ、履は「▯-▯-▯-▯の形に数珠つなぎに並ぶ、連なる」というイメージがある。禮は理や履に近く、「▯-▯-▯-▯の形にきちんと順序よく並ぶ」というイメージである。體(体)は骨格が順序よく組み立てられたものとしての「からだ」の意味で、禮とイメージが非常に近いが、體はterの音で、同源とまではいかない。
次に字源を見る。禮は「豊レイ(音・イメージ記号)+示(限定符号)」と解析する。豊レイは豐ホウとは別の字で、豆(たかつき)の上に供え物を盛りつけた情景である。これによって「形よく整う」というイメージを表す記号となる。図示すると▯-▯-▯-▯の形(縦に並んだ形)である。示は祭壇の形で、祭りや神に関係があることを示す限定符号。したがって禮は神前で行う整った儀式を暗示させる。この図形的意匠によって、物がちきんと整ったり、手順が順序よく整った行儀作法を表す。示の限定符号は図形的意匠を作る場面を設定する働きであって、禮の意味内容(意味素)には入らない。
常用漢字は礼の字体が採用された。礼は古文(戦国時代に存在した漢字の書体の一つ)に由来する。乚(乙)は札・軋・亂などに含まれ、「押さえる」というイメージがある。乱れやゆがみのないように押さえて整えることを、この符号で暗示し、きちんと整った作法を礼とした。