「齢」
正字(旧字体)は「齡」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は令。説文新附に“年なり”とし、字林に“年歯なり”とあり、“とし、よわい”の意味に用いる。獣畜の類は、歯をみて容易にその年齢を知ることができるので、歯を字の要素として含んでいる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、会意的に説くのが特徴であるが、本項では令から会意的に説明していない。中途半端な字源説である。令は「単なる音符」という考えは白川学説ではありえない。だから形声文字の説明に行き詰まってしまう。形声の説明原理とは言葉という視点に立ち、言葉の深層構造へ掘り下げて、意味を説明する方法である。言葉の深層におけるコアイメージを捉えないと意味を説明することができない。
古典における齡の用例から意味を確かめ、その後で字源・語源を考えるのが、筋道である。
 原文:夢帝與我九齡。
 訓読:帝の我に九齢と与ふるを夢む。
 翻訳:上帝[天の神]が私に九歳を与えたのを夢に見た――『礼記』文王世子
齡は生まれてからの(あるいは、寿命のある間の)年数(よわい、とし)の意味で使われている。これを古典漢語ではleng(呉音でリヤウ、漢音でレイ)という。これを代替する視覚記号として齡が考案された。
齡は「令(音・イメージ記号)+齒(限定符号)」と解析する。令については1903「令」、1910「零」などで述べている。結論を言うと令は「▯-▯-▯-▯の形(数珠つなぎ)にきちんと並ぶ」というコアイメージを示す記号である。齒は歯と関係があることを示す限定符号。誕生後、歯は年月とともに順序よく並び生える。歯は年月と関係があるので、歯も「とし」の意味がある。したがって齡は歯が年ごとに▯-▯-▯-▯の形に並び生えるように、寿命が一年、二年と数珠つなぎに連なっていく状況を暗示させる。この意匠によって、上記の意味をもつlengを表記する。