「烈」

白川静『常用字解』
「会意。列は首を切って胴体と頭部を切り分けた死体で、それに火を加えて焼く形が烈であるから、“はげしい、きびしい”の意味となる」

[考察]
列と烈は明らかに音のつながりがある。だから形声のはず。しかし白川漢字学説には形声の説明原理がない。だから本項ではあえて会意とする。 会意的解釈をすると、列(首を切って胴体と頭部を切り分けた死体)+火→死体に火を加えて焼く→はげしいという意味が導かれる。
会意的解釈を徹底させると、「死体を焼く」という意味になりそうなものである。死体を焼くことからなぜ「はげしい」の意味になるのか、考えてみるとよく分からない。必然性があるとは言えない。
烈の使い方(意味)を古典で確かめるのが先決である。
①原文:如火烈烈
 訓読:火の烈烈たるが如し
 翻訳:火が燃え盛るかのようだ――『詩経』商頌・長発
②原文:載燔載烈
 訓読:載(すなは)ち燔(や)き載ち烈す
 翻訳:[羊の肉を]火にまるごとあぶり焼く――『詩経』大雅・生民
③原文: 迅雷風烈必變。
 訓読:迅雷風烈には必ず変ず。
 翻訳:[孔子は]雷や風が激しいときは必ず態度を改めた――『論語』郷党

①は火が燃え盛る意味、②は火で焼く意味、③は勢いが激しい意味で使われている。これを古典漢語ではliat(呉音でレチ、漢音でレツ)という。これを代替する視覚記号として烈が考案された。
烈は「列(音・イメージ記号)+火(限定符号)」と解析する。列については1917「列」ですでに述べた。繰り返しになるが再掲する。
列の左側は歹(死・残などに含まれる)であるが、篆文を見ると「巛+歹」になっている。歹は関節の骨の下半部で、切り離された骨、あるいは崩れてばらばらになった骨である。巛は三本の筋を示す符号。ばらばらになった骨を拾い集めて並べる情景を想定した図形である。これに刀を添えたのが列で、切り分けて幾筋かに並べる情景を暗示させる。図示すると▯-▯-▯-▯の形。この行為の前半に焦点を置くと「▯←→▯の形に両側に分ける」というイメージ、後半に焦点を置くと「▯-▯-▯-▯の形に分けて並べる」というイメージになる。(1917「列」の項)
列は「▯←→▯の形に両側に分ける」というイメージがある。←→を縦にしてもイメージは変わらない。横と縦を組み合わせると「左右上下(四方)に分かれ出ていく、分散する」というイメージに転化する。火は火と関係があることを示す限定符号。言い換えれば意味領域が火と関係があることを示す。したがって烈は炎が四方に分散して燃える情景を暗示させる。この意匠によって、上の①②の意味を表す。「左右上下(四方)に分かれ出ていく、分散する」というコアイメージから、勢いが四方に発散する→勢いが激しいという意味に展開する。これが上の②である。