「炉」
正字(旧字体)は「爐」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は盧。炉は“いろり”であり、寒冷地では民家で重要な場所とされるものであるが、中国の古い文献には爐の字はみえない」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では盧から説明できず字源を放棄している。1596「膚」でも同様である。
古典における爐の用例は次の通りである。
 原文:奉熾爐。
 訓読:熾炉シロを奉ず。
 翻訳:火の盛んにおこる火鉢を用意する――『韓非子』内儲説下
爐は火を焚く道具の意味で使われている。これを古典漢語ではhlag(推定。後にlo。呉音でル、漢音でロ)という。 これを代替する視覚記号として爐が考案された。
爐は「盧(音・イメージ記号)+火(限定符号)」と解析する。盧については1596「炉」でも述べた。 
盧の上部は𧆣であるが、これで一つの独立字である。虍は虎の頭の部分だけを切り取った字。トラという実体がポイントにあるのではなく、形態がポイントである。丸みを帯びた形から、「丸い」というイメージを示す記号となる。𠙹は飯を入れる器である。𧆣は「虍(コ)(音・イメージ記号)+𠙹(限定符号)」と解析する。𧆣は丸い形の食器(飯入れ)を表す。盧は「𧆣(ロ)(音・イメージ記号)+皿(限定符号)」と解析する。盧は丸い壺を表す。いずれにしても𧆣も盧も「ころころと丸い」というイメージでは共通する。これらは丸い形をした(壺形の)器から発想されている。「盧(壺のようにころころと丸いもの)+火」を合わせた爐は火を入れて燃やす丸い器を暗示させる。この意匠によって、「火を焚いて、物を焼いたり暖を取ったりする用途のある壺形の道具」の意味をもつhlag(lo)という語を表記した。
炉は囲炉裏や暖炉、火鉢、かまど、香炉などを含む。 近年では反射炉、懐炉なども炉の一種である。