「維」

白川静『常用字解』
「形声。音符は隹。隹に唯(しかり)・帷(たれぎぬ) の音がある。繊維のように用いるが、紐や綱のように、繊維で編んだ強い綱のようにしたものをいい、‘つな、つなぐ’の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説では形声の説明原理がないので、すべて会意的に説くのが特徴である。本項ではなぜ「つな」の意味が出るのかの説明がない。 会意的に解けないので形声とするほかはないが、形声でも解けない。ちなみに「唯」の項では会意としている。

漢字を理解する正しい筋道は言葉から出発することである。言葉とは古典漢語である。古典漢語とは古典で使用されている言葉である。これは当然漢字で表記されている。漢字で表記された古典漢語は古典を調べることによって意味が分かる。漢字の形から意味が分かるのではない。漢字を分析して意味を取り出すのでもない。意味は古典の文脈で使用される語の使い方である。どのように使われているかが、すなわち意味である。具体的文脈がないと意味はない。では維はどのような文脈で使われているか。それを見てみよう。
 原文:斡維焉繫
 訓読:斡維アツイは焉(いずく)にか繫がる
 翻訳:天を回す大綱はどこでつながれているのか――『楚辞』天問

天は太い綱(四つの天柱があり、これを四維という)で支えられているという中国神話がある。『楚辞』は戦国時代の屈原の書いた詩集で、天地の構造を問う一段に上の文が出ている。維はすでに『詩経』にも現れる字だが、「つなぐ」という動詞で使われている。おそらく「つな」という名詞が先であったと考えられるので、『詩経』より後の『楚辞』の用例を掲げた。

太く大きな綱を古典漢語でyiuərといい、この聴覚記号を維という視覚記号に換えた。なぜ隹という記号を用いたのか。隹はある種の鳥であるが、実体よりも形態的特徴にポイントがある。鳥は尾が長いというのが特徴であるが、これに対して隹は尾が短くずんぐりと丸みを帯びているという特徴がある。この特徴を表現する図形が隹である。これによって「ずっしりと重い」「上から下に重みをかける」というイメージを表現することができる。
かくて太く大きな綱を意味する古典漢語yiuərを表記するため、「隹(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」を合わせた維が造形された。この図形的意匠は、重い物をずっしりと支える太く大きな綱である。

漢字を見る眼は形→意味の方向ではなく、意味→形の方向でないと間違いが起こる。どんな間違いかというと、意味の取り違えや、あり得ない意味の創造である。意味は言葉にあるのであって、形(字形)にはない。正しい漢字の見方が求められる。