「緯」

白川静『常用字解』
「形声。音符は韋。韋は囗(都市をとりかこむ城壁)の上下を足が左にめぐり、右にめぐる形。そのように左に行き、右に行く形は織物のよこ糸を織る状態に似ているので、‘よこいと’を緯という」

[考察]
形から意味を導く方法に問題があるが、「よこいと」の意味としたのは問題がない。
口を囗とし、「都市をとりかこむ城壁」とした解釈はあまりに限定的である。口を祝詞を入れる器とするのが白川漢字学説の根幹であるから、これと区別するために口を囗としたのであろう。口は単純に四角形または円形を表していると考えてよい。その上に左向きの足の形、下に右向きの足の形を配して、←の方向が→の方向に転じる、周りをぐるりと回るというイメージを示すのが韋の記号である。⇄の形に方向が逆になる、行き違うというイメージも表すことができる。

緯は古典でどのように使われているかを見てみよう。
 原文:嫠不恤其緯、而憂宗周之隕。
 訓読:嫠リは其の緯を恤(あわ)れまず、而して宗周の隕(お)ちたるを憂ふ。
 翻訳:機を織るやもめは横糸を気にしなくても、周国の衰微を心配する――『春秋左氏伝』昭公二十四年

機織りの横糸という意味で使われている。 機で布を織る際、縦に張った糸の間を梭(ひ)という道具を用いて横糸をくぐらせて織る。横糸は↓↓↓の形の縦糸に対して、→の方向に進み、折り返して←の方向に進む。すると横糸は⇄の形状を呈する。したがって「よこいと」を意味する古典漢語ɦiuərの視覚記号として、「⇄の形に逆方向になる」というイメージを表す韋(13「囲」を見よ)を利用して、「韋(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」を合わせた緯が考案された。
意味→形の方向に説くのが漢字解釈の正しい筋道である。