「印」

白川静『常用字解』
「会意。卩(人が跪いて座る形)の上から爪(指先)を加えている形。上から強く‘おさえる’の意味があり、それは印璽を押すときの動作であるので、‘はん’の意味となり、すべて押してしるしをつけることを印という」

[考察]
意味はその通りであるが、説明の仕方に問題がある。上から強く押さえる意味→はんこの意味とするが、歴史的に見ると、はんこの意味が先である。
意味は形から出るのではなく、言葉にある。言葉の使い方が意味である。歴史的、論理的に印の成り立ちを記述しよう。まず印は古典でどのように使われているかを調べる。
 原文:授其印。
 訓読:其の印を授く。
 翻訳:そのはんこを授ける――『墨子』号令

先秦の古典では印は『墨子』のほかあまり用例がない。印象や印刷の印(押しつける意)や烙印の印(しるしの意)はかなり遅れて生じる意味である。
印の最初の意味は「はんこ」であった。この意味の古典漢語を・ienという。これは抑と同源である。抑の右側は迎・仰の右とは別で、印の鏡文字(左右反転形)である。印・抑とも「上から下に押さえる」というイメージがある。イメージは意味(文脈における使い方)とは違い、語の深層構造にあるイメージ、すなわちコアイメージである。コアイメージが表層に現れて、意味(文脈における使い方)として実現される。

古代からはんこがあり、n(s)ieg(璽)とも言われるが、・ienとも言われた。後者を表記する視覚記号として印が考案された。はんこの機能は平面にくっつけることにあるので、爾(「近づく・くっつく」がコアイメージ)を利用して璽が生まれ、一方、はんこは上から下の面に押さえる機能があるから、「押さえる」というコアイメージを表現できる図形が工夫された。これが印である。分析すると「爪(下向きの手の形)+卩(跪いた人の形)」を合わせて、上から手で押さえて跪かせる場面が造形された。この図形的意匠によって、「上から押す」というイメージを暗示させるのである。
以上が印の歴史的、論理的説明である。