「韻」

白川静『常用字解』
「形声。音符は員。員にはまろやかなものの意味がある。古くは均の字を用いたことがあり、それでわが国では韵のような字を作った。韻は音の‘ひびき’ の意味だけでなく、風韻のように、すべて‘おもむき’のある様子をいう」

[考察]
員に「まろやかなものの意味がある」というが、そんな意味はない。しかし員は圓(=円)の元になる字で、「まるい」というイメージがある。また韵を国字(和製漢字)としているが、『晋書』に出典があり、字典にも記載された韻の異体字である。韵は国字ではない。

白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが特徴である。まろやかなもの→音のひびきという意味を導くが、ぴんと来ない。
コアイメージという概念を用いると形声文字を説明することができる。形声に限らずすべての漢字がコアイメージを持っているが、形声文字の場合はいわゆる音符の部分にコアイメージの源泉がある。したがって韻は「員(音・イメージ記号)+音(限定符号)」と解析する。音・イメージ記号が語の深層構造に関わる部分であり、ここにコアイメージがある。では員はどのようなコアイメージを持っているのか。

員は「〇+鼎」を合わせた図形によって、「まるい、円形」というイメージを示す記号である(40「員」を見よ)。まるい形のイメージは「まるくめぐる」「まるく行き渡る」「中心から全体に等しく行き渡る」 などのイメージに展開する。三角形のイメージが「かどがある」「とがる」などのイメージと結びつくのに対し、円形のイメージは円満、調和、均整などのイメージと結びつく。だから「員」は「調和・均整がとれている」というイメージを表すことができる。したがって「員(音・イメージ記号)+音(限定符号)」を合わせた韻は全体に等しく行き渡って調和する音を暗示させる。この意匠によって、調和した音の調べを意味する古典漢語ɦiuənを表記する。
韻の異体字の韵には 匀インが含まれている。匀は平均の均にも含まれている。古人が韻と均を同源の語と見た証拠である。調和・均整のイメージが韻の深層構造にあるわけである。