「芋」

白川静『常用字解』
「形声。音符は于。于には長くて大きくて、先がゆるくまがるの意味がある。芋は太くて長い形の‘いも’ をいう」

[考察]
于に「長くて大きくて、先がゆるくまがる」の意味があるというが、于にそんな意味はない。宇の項で指摘したように、于は「⁀や‿の形を呈する」(⁀形にかぶさる、‿形にくぼむ)というイメージがある。だから「曲がる」というイメージもある。しかし「長くて大きい」という意味はないし、イメージもない。
また「太くて長い形のいも」というが、これは図形の解釈であろう。白川漢字学説は図形的解釈をストレートに意味とするのが特徴である。

芋はどんな意味で使われているか古典の用例を見てみよう。
 原文:毋蹇華絶芋。
 訓読:華を蹇(ぬ)き芋を絶つ毋(な)かれ。
 翻訳:植物の花を抜いたり、イモを切ったりしてはいけない――『管子』四時

古典に出る動植物を研究する学問を名物学という。また薬物を研究する分野に本草学がある。名物学や本草学によれば、芋はColocasia esculentaに同定されている。これは熱帯アジア原産のサトイモである。地下茎が肥大するので、うずくまるチュウヒに見立てて蹲鴟ソンシの異名がある。このイモを古典漢語では宇と同音でɦiuagという。宇の基幹符号である于が根源のイメージを提供する記号である。これは「⁀や‿の形を呈する」というイメージである。かくてサトイモの特徴である肥大した茎に着目し、「⁀や‿の形を呈する」というイメージをもつ于を用い(46「宇」を見よ)、「于(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」を合わせた芋の図形が生まれた。