「英」

白川静『常用字解』
「形声。音符は央。央には美しく、盛んなものという意味があって、美しい‘はな’ 、また花の美しいことを英という。その意味を人に移して、才能のすぐれた人を英といい、‘すぐれる’の意味に用いる」

[考察]
同書の「央」の項では、「首に枷を加えられている人を正面から見た形。央は殃(刑罰の災い)のもとの字であると考えられる。死罪のような禍をいう」とあり、「美しく盛んなもの」という意味とは懸け離れている。
白川漢字学説には形声文字の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが特徴である。英を会意的に説こうとすると央に「美しく盛んなのもの」という意味を設ける無理が生じる。

古典で英がどのように使われているかを見てみよう。
 原文:彼其之子 美如英
 訓読:彼(か)の其の子 美なること英の如し
 翻訳:かのいとしい人は 花のような美しさ――『詩経』魏風・汾沮洳

植物のはなの意味で使われている。「はな」を意味する語にはほかに花・華・栄・葩もあるが、それぞれ由来(語源)が違う。「はな」に対するイメージの違いから違った語が生まれている。英はどんな発想から造語されたか。英と呼ばれる「はな」のイメージは央のコアイメージと関わりがある。
央は「真ん中」の意味である。ある線分(あるいはある範囲の空間)を想定した場合、 上と下(あるいは左と右)を分けた中間の部分である。例えば―・―という図の「・」の部分である。これは―|―の形と見てもよい。この図から浮かぶイメージは「くっきりと切れ目がついている」「はっきりと分かれている」というイメージである。このように「真ん中」という空間的イメージは「はっきりと区切りがついている」「けじめがついてはっきりしている」というイメージとつながる。またこのイメージは「くっきりと目立つ」というイメージにもつながる(89「央」を見よ)。
こういうイメージの転化現象を踏まえて、植物の「はな」に対するイメージも生まれた。「はな」は植物の中央というわけではないが、他の部分(根、幹、茎、葉など)の中では格段に目立つ部分である。「くっきりと分かれて目立つ」というコアイメージを読み取って、「はな」を・iăŋと名づけ、「央(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」を合わせた英によって表記したのである。