「鋭」
正字(旧字体)は「銳」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は兌。もとの字は㓹に作り、炉の中に刀を入れて鍛えることをいう。それによって刀の刃はより鋭くなるので、‘するどい、つよい’の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がない。兌では「するどい」の意味が説明できないので、籀文の字体を持ってきて会意的に説く。しかし㓹が「炉の中に刀を入れて鍛える」と解釈するのは相当無理がある。「鍛える」から「するどい」の意味に展開させるのにも疑問がある。

古典での鋭の使い方を見てみる。
 原文:鋭則挫兮。
 訓読:鋭ければ則ち挫く。
 翻訳:刃が鋭ければ折れやすい――『荘子』天下

明らかに「(刃などが)するどい」の意味で使われている。注釈に「鋭は利なり」の訓がある。利は「通りがよい」というのがコアイメージである。物に差し込んでスムーズに通ることが鋭利である。スムーズに通るのは刃物の刃先が細く尖っているからで、この状態を鋭という。日本語の「するどい」も「先がとがっている」が原義という(『岩波古語辞典』)。
するどいことを意味する古典漢語を表記する視覚記号が鋭である。兌が鋭のコアイメージと関わる基幹記号である。これはどんなイメージか。
図形を分析すると「八+兄」からできている。極めて舌足らず(情報不足)な図形で、何とでも解釈できるが、脱ぐと関係があり、兌のグループ(脱・悦・説・閲・税・蛻など)を構成することを念頭に置くと、ほぼ妥当な解釈ができる。兄は兄弟のうち比較的年長のもので、頭の大きな人の図形で表される。しかし兌という図形では年齢は関係がなく、ただ子供を示していると考えてよい。 八は↲↳の形に左右に(両側に)分けることを示す象徴的符号である。何を分けるのかは図形に現れていないが、子供の衣服を左右に分けて脱がす情景と解釈できる。兌という図形的意匠によって、「外側のものを剝ぎ取って中身を取り出す」「中身を抜き出す」「中身が抜け出る」というイメージを表す記号になりうる(「脱」を見よ)。兌のグループの根底にはこのイメージがある。
さて刃物がするどいのは刃先がとがって物によく通ることである。刃物の切れ味がよいと、物に差し込んだ中身が抜け出るほどである。だから「中身が抜け出る」というイメージを表す兌を用い、「兌(音・イメージ記号)+金(限定符号)」を合わせた鋭によって、「刃物がよく切れる(するどい)」の意味の語を表記する。