「衛」
旧字体は「衞」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は韋。韋は囗(都市をとりかこむ城壁)の上下に止(足あとの形)が左にめぐり、右にめぐる形で、都市の周辺を守るの意味がある。韋に行(十字路の形)を加えた衛は、都市の周囲を巡回して衛(まも)るの意味である」

[考察]
形から意味を引き出すのが白川漢字学説の特徴である。韋は「都市の周辺を守る」の意味だという。しかしこんな意味はない。もしそんな意味があるとすれば、これだけで十分であろう。行を加える必要はない。また図形的解釈をそのまま意味とするので、余計な意味素(都市)が紛れ込んでいる。衛は都市を防衛するという限定的な意味ではない。
いったい意味とは何なのか。白川漢字学説では形に意味があるという。しかし意味は言葉の意味というのが言語学の常識である。言語学では言葉(記号素)は音声要素(聴覚映像)と意味要素(概念・イメージ)の結合したものと定義される。だから意味は言葉の一要素である。
形から意味を求めるのは誤った方法である。では意味はどのようにして知るのか。古典の文脈上の使い方によって知るである。衞の文脈を見てみよう。
 原文:以衞諸夏之地。
 訓読:以て諸夏の地を衛(まも)る。
 翻訳:それで中華の国々を守った――『国語』斉語

注釈に「衛は守なり」「衛は護なり」とあり、中の物を外側から取り囲むようにするというイメージが共通である。ただし衛は守や護と同源ではないが、圍(囲)とは同源である。「ぐるりと取り巻く」というコアイメージが共通である(13「囲」を見よ)。このコアイメージを表す基幹記号が韋である。
どのように韋が造形されているかを分析するとコアイメージを把握するヒントになる。韋は口(四角形だが、円形と見てもよい)の上に左向きの足、下に右向きの足を配置した図形である。これは静止画像だが、想像力を駆使して動きを与える。すると上の足は←の方向に移動していき、下の足は→の方向に移動していく。足の向きが途中で反対になり、円形の周りをぐるりと移動したことになる。このような動画風の図形によって、物の周りをぐるりと(ぐるぐると)回るというイメージを韋が表現できるのである。
かくて「韋(音・イメージ記号)+行(限定符号)」を合わせた衛は、ある物の周囲を回り歩く情景を暗示させる。この意匠によって、周りをぐるりと取り囲んで 中の物を守ることを意味する古典漢語ɦiuadを表記する。韋はただ「周りを取り巻く」というというイメージを表すだけで、「守る」という意味を含むわけではないが、衛という図形で「守る」を想像力で補う仕掛けである。
なおɦiuadの表記としては衛で十分であるが(金文にある字体)、 帀を加えることで「めぐる」というイメージを補強している。帀は之(足がまっすぐ進む)の逆さ文字で、まっすぐ進まないでറの形にぐるりと回ることを示す記号である。衞は篆文の字体。「韋(音・イメージ記号)+帀(イメージ補助記号)+行(限定符号)」と解析する。