「垣」

白川静『常用字解』
「形声。音符は亘。亘はものの周囲をめぐる形。建物などの周辺を土塀で囲むものを垣といい、‘かき、かきね’ の意味となる」

[考察]
意味の導き方に問題はあるが、おおむね妥当である。しかし亘がなぜ「ものの周囲をめぐる形」なのかの説明が不十分である。宣の項では「亘は半円形のものをいうことが多い」とあるから、「めぐる」を表せるか疑問である。

まず言葉から出発すべきである。垣は古典では次の用例がある。
 原文:耳屬于垣
 訓読:耳垣に属(つ)く
 翻訳:かきねに耳がついている――『詩経』小雅・小弁

日本の諺「壁に耳あり」は『詩経』の「耳、垣に属す」に由来する。他人がひそかに盗み聞きをする、噂が外部に漏れやすいという意味である。この垣は古典漢語ɦiuănを表記する視覚記号である。上記のように「かき」「かきね」の意味で使われている。
語源について王念孫(近世中国の古典学者)は「垣は環なり。宮外を環繞するなり」と述べている。周囲をぐるりと取り巻く(めぐらす)というイメージをもつ語という捉え方である。亘はこのイメージを表せるだろうか。
『説文解字』では「二に従ひ、囘に従ふ。囘は古文の回。亘回の形に象る」という。回は〇の形にめぐるというイメージを表すことができる。「二(上下の線)+囘(まるく回る)」を合わせた亘は、上の線を←の方に動かし、下の線を→の方に動かして、ぐるりとまるく一巡させる様子を暗示させる。この意匠によって、「ぐるりとまるく取り巻く」というイメージを表すことができる。
垣は「亘(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。建物や屋敷の周りをぐるりと取り巻く土塀を暗示させる。土で作られてなくても「かき」「かきね」をɦiuănといい、垣の記号で表記する。