「園」

白川静『常用字解』
「形声。音符は袁。袁は死者の衣の襟もとに玉(〇)をおき、その枕もとに之(足あとの形で、行くの意味)を加え、死者が死後の世界に旅立つのを送ることを意味する字で、遠のもとの字である。この袁の音と意味を加えた字ならば、園は墓地の植え込みをいう字となる」

[考察]
形から意味を導くのが白川漢字学説の特徴である。すべての漢字を会意的に説く。形声の説明原理はない。だから本項も形声ではなく、会意と規定すべきである。
また「死者が死後の世界に旅立つのを送る」の意味から「墓地の植え込み」の意味になるとはあまりに突飛すぎる。死後の世界→墓地と連想させるのだろうか。
しかし字解に大きな疑問がある。袁に「死者が死後の世界に旅立つのを送る」という意味はあり得ない。『説文解字』では「袁は長衣の貌」とある。しかし前者の意味も後者の意味も用例がない。古くから固有名詞に使われるだけである。袁は園・遠・猿・轅・瞏(環・還)などの単語家族の基幹記号として、これらの語群の共通のコアイメージを表すのである。これはどんなコアイメージか。図形を解剖して、古人がどんなイメージを表したいのかを探ってみよう。
袁は衣の中に〇(口は変形)を入れた形だが、衣は普通の衣ではなく、上に屮(上に突き出る形)がついている。これは『説文解字』にある長衣、つまり襟の高いコートやガウンのような衣と考えられる。この衣自体が普通の衣よりも大きいものだが、中に〇を入れることによって、中がゆったりとあいた衣を暗示させる図形となっている。
さて上記の袁の語群は圓(円)とも同源で、「周囲を〇の形に取り巻く」「丸くゆったりと取り巻く」というイメージを想定できる。したがって袁はこのイメージをもつɦiuănという語のコアイメージを表す記号になりうる。かくて袁のグループの一員である園が生まれた。園は次の文脈で使われている。
 原文:將仲子兮 無踰我園
 訓読:将(こ)ふ仲子よ 我が園を踰(こ)ゆる無かれ
 翻訳:ねえお願い仲子さん 私の園を越えないで――『詩経』鄭風・将仲子

注釈書などを見ると、垣をめぐらして植物を栽培する所(日本語の「その」)という意味で使われているのは明白である。垣などで取り巻いた所なので、「〇の形に取り巻く」というコアイメーを表す記号である袁を用いて、「袁(音・イメージ記号)+囗(限定符号)」を合わせた園が成立する。