「汚」

白川静『常用字解』
「形声。もとの字は汙に作り、音符は于。于は先がゆるく曲がった刀の形で、‘ゆるくまがる、くぼむ’ などの意味がある。汚はくぼんだ水たまりで、くぼんだところは泥などで汚れやすいものであるから、汚には‘よごれる、よごす、けがす、けがれる、きたない’の意味がある」

[考察]
于の解字に疑問がある。先の曲がった刀の形には見えない。古人が「一+丂」と分析したのがよい。「丂」は朽・号・考などに含まれる記号で、線がつかえて曲がる様子を示す象徴的符号。これに一を添えた于も、頂点でつかえて曲がる状況を暗示させる。「⁀の形に曲がる」というイメージを表すための記号である。このことはすでに46「宇」で説明してある。「⁀」の形は視点を変えれば「‿」の形のイメージにも転化する。視座の置き所によってイメージはいろいろに変わるものである。

図形から意味を引き出すのではなく、言葉の意味を探るのが正しい漢字の見方である。形の分析はその後である。では汚はどんな文脈で使われているかを見てみよう。
①原文:徹我牆屋 田卒汙萊
 訓読:が牆屋を徹し 田卒(ことごと)く汙萊オライたり
 翻訳:塀や家屋を取り壊し 田畑はすべて水たまりや荒れ地になった――『詩経』大雅・十月之交
②原文:水鬱則爲汚。
 訓読:水鬱すれば則ち汚と為る。
 翻訳:水が塞がれて流れないと汚水になる――『呂氏春秋』達鬱

①は水たまりの意味、②はよごれるの意味で使われている。なぜ水たまりから「よごれる」という意味に転じるのであろうか。水たまりは流れが滞った所なので、「滞る、動きや通りが悪い」というイメージがあり、水が流れず濁る→よごれると意味が転じたと考えられる。2の文脈はまさにこの意味展開の説明にもなっている。
古典漢語で水たまりを・iagといい、これを表記するために汙が考案された。「于(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。于は「‿の形を呈する」というコアイメージを表す記号である。だから汙は‿の形を呈する水たまりを暗示させる。
なお字体は汙→污→汚と変わった。中国では污、日本では汚が用いられている。