「凹」

白川静『常用字解』
「象形。中央が下にくぼんだ形。‘くぼむ、くぼみ’ の意味に用いる」

[考察]
形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。「 形が意味を表す」と言えるのは常用漢字では「凹」と「凸」だけ。これらは字形そのものが「へこむ」と「突き出る」を表している。「人」「日」「犬」なども象形文字であるが、これらの字形はどう見ても人間、太陽、イヌには見えない。形から意味を引き出せないほど漢字の形は初めから抽象化が進んでいる。

意味は形にあるのではなく言葉にある。漢字の意味と言っているのは、漢字の形が表す意味ではなく、古典漢語がもつ意味である。
ただし「凹」は古典にはない。 古典漢語ではapのような発音の言葉があり、これは「上から下に押さえる」という意味で、漢字では押で表記された。これは漢代以前の古典にある。晋代(4世紀頃)になって、「上から下に押さえる」というイメージが「押し下げられてへこむ」というイメージに転化し、ʌpという言葉が生まれ、これを「凹」と表記するようになった。「押し下げられてへこむ」というイメージを「凹」の図形そのもので暗示させているわけだ。
「凹」は何らかの物を象るのではない。だから象形というよりは象徴的符号と見るべきだ。