「央」

白川静『常用字解』
「象形。首に枷を加えられている人を正面から見た形。枷は刑罰の道具である。央は殃(刑罰の災い)のもとの字と考えられる。手や足でなく 体の中央に近い首に加える刑罰であるから、‘まんなか’の意味となる」

[考察]
首に枷をはめることから、「まんなか」の意味の「央」が生まれたという。首は体の中央に位置するだろうか。これが疑問。枷をはめるという刑罰の行為と「まんなか」という空間的位置に必然的なつながり は感じられない。

「央」は古典でどのように使われているかを調べる。
①原文:溯游從之 宛在水中央
 訓読:溯游して之に従へば 宛として水の中央に在り
 翻訳:流れを遡って後を追うと いつの間にか川の真ん中にいた――『詩経』秦風・蒹葭
②原文:夜如何其 夜未央
 訓読:夜は如何(いかん) 夜は未だ央(つ)きず
 翻訳:夜はいま何時? まだ宵のうちだよ――『詩経』小雅・庭燎

①は名詞で「真ん中」の意味、②は動詞で「尽きる」の意味で使われている。この二つの意味はどんな関係があるのか。語のコアイメージがそれを解く鍵である。
真ん中は幅や広がりのある空間の中ほどである。これを図示するとー・ーの形、あるいは―|―の形である。上あるいは左から出る線が、ある範囲の中ほどに至り、上と下、あるいは左と右に分ける位置にあるというイメージである。言い換えると、ある長さや幅のある線分を想定し、上から押し下げて中ほどで止めると、上下の真ん中の位置になる。これで「上下に分けたちょうど中ほど」というイメージが生まれる。このイメージを表す古典漢語がiangである。もっと抽象化すると「中ほどを押さえ止める」「上下にはっきりと分ける」というのがiangのコアイメージで、具体的文脈では「真ん中」の意味が実現される。これが1の用例である。
ー・ーや―|―の形の「・」や「|」に視点を置いたのが「真ん中」「中ほど」「なかば」の意味である。一方、上から押し下げて|の所で止めると、これ以上は行けない、つまり「尽きる」という意味が実現される。2はこの用例である。空間的イメージを時間的イメージに転用して、夜の時間が中ほどに来ていないことを「未だ央(つ)きず」と表現している。夜の中ほどは深更(よふけ)であるから、まだそこに至っていない時間は宵ということになる。

iangという古典漢語を図形化したのが「央」である。ここから字源の話になる。「央」は大の字になった人の首のあたりに符号を付けた図形である。頭のてっぺんに「一」の印を付けたのが「天」、頭のやや下に「一」の印を付けたのは「夫」で、「央」もこれらと似た形であるが、「央」では冖のような符号である点が違う。枷といった具体物ではなく、象徴的符号であり、人の首のあたりを押さえる情景を暗示させている。この意匠によって「(ある範囲の)中ほどを押さえる」というイメージを表すことができる。
「央」を首に枷をはめる刑罰と解釈すると、手足ではなく体の中央である首に枷をはめるから「真ん中」の意味になったといった解釈になる。ここには言葉が抜け落ちている。形→意味ではなく、意味→形の方向に逆転させる発想が必要である。