「荷」

白川静『常用字解』
「形声。音符は何。何に“になう” の意味がある。何と通じて、“に、になう”の意味に用いる。草の名としては“はす”をいう」

[考察]
形声の説明原理をもたないのが白川漢字学説の特徴である。それは言葉という視点が欠けているからである。「何と通じて、になうの意味に用いる」というが、「通じて」とは何を言いたいのか不明。荷は草の名であるが、何を借用して「になう」の意味に用いるというのであろうか。しかしなぜ「はす」の意味なのか、これも分からない。形声の説明ができないから、「になう」と「はす」の関係を捉えることができない。

古典でどんな意味で使われているかを検討するのが先である。次の用例がある。
①原文:彼澤之陂 有蒲與荷
 訓読:彼の沢の陂(つつみ)に 蒲と荷有り
 翻訳:あの沢の堤に ガマとハスが生えている――『詩経』陳風・沢陂
②原文:有荷蕢而過孔氏之門者。
 訓読:蕢(あじか)を荷(にな)ひて孔氏の門を過(よぎ)る者有り。
 翻訳:もっこを担いで孔子の門前を通りかかったものがいた――『論語』憲問

①は植物のハスの意味、②は「になう」の意味で使われている。いったい遠く離れた二つの意味の間に何の関係があるのか。それを解く鍵はコアイメージであり、これこそ形声文字を解釈する原理、あるいは造形法の一つである。
荷は「何(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」と解析する。何は「ᒣ形に曲がる」というコアイメージを示す記号である(113「何」を見よ)。ᒣの形はᒥの形、ᒪの形、∠の形にも転じるが、ᒣとᒥを合わせた丅の形にも転化する。植物のハスは水面で葉が丅の形を呈する。この特徴を捉えてハスを意味する古典漢語を表記するのに「何」を利用して荷と表記する。
一方、「になう」の意味をもつ古典漢語の表記は何であった。しかしこの何を疑問詞に用いるようになったため、「になう」の表記は荷に譲った。荷は「丅形をなす」というイメージだが、これは何の「ᒣ形をなす」というイメージと関係があるので、荷が「になう」の表記になりうるからである。