「稼」

白川静『常用字解』
「形声。音符は家。もとは稲などを植え、より多くの収穫をえようと農業にはげむことをいう字であったが、国語では“かせぐ”とよんで、利益を求めて、農業に限らず仕事にはげみ、努力することをいうようになった」

[考察]
白川漢字学説では形声の説明原理がない。すべての漢字を会意的に説くのが特徴であるが、家からの説明ができないので、字源を放棄している。
漢字の説明は形からではなく言葉から出発しなければいけない。文脈から意味を求めるのが先である。古典では次のような用例がある。
 原文:不稼不穡 胡取禾三百廛兮
 訓読:稼せず穡ショクせずんば 胡(なん)ぞ禾(いね)三百廛テンを取らんや
 翻訳:植えつけて取り入れしなけりゃ 三百軒分の稲は取れるまい――『詩経』魏風・伐檀

作物を植えつける意味で使われている。このことを古典漢語ではkăgという。この語は家と同音である。家との同源意識から生まれた語である。家は「上からかぶせる」というコアイメージがある(122「家」を見よ)。したがって「家(音・イメージ記号)+禾(限定符号)」を合わせた稼は、種子に土をかぶせる情景を暗示させる。この意匠によって、「作物を植えつける」の意味をもつkăgを表記する視覚記号とする。
作物を植えつける意味から作物を取り入れる(収穫する、収穫したもの)の意味に転じる。原因から結果に視点が移動して転義が起こった。取り入れる・取り込む意味があるので、金やもうけを取り込む、つまり「かせぐ」の意味が生じた。ただしこの意味は日本的展開である。