「届」

白川静『常用字解』
「会意。尸は死体の横たわる形、 凷カイは土を穴の中に入れる形。届はいたるの意味に用いる。届は土中深くに埋めるの意味の字とみられる」

[考察]
尸(死体の形)と凷(土を穴に入れる形)からなぜ「いたる」の意味が出るのか、合理的な説明がない。また届に「土中深く埋める」という意味はない。これは図形から引き出したもので、図形の解釈と意味が混同されている。
凷はカイの音だから形声のはず。白川漢字学説には形声の説明原理がないので、すべて会意的に説くのが特徴である。しかし本項では会意としても納得できる説明が出てこない。

古典では届は「いたる」の意味で使われ、次の用例がある。
 原文:譬彼舟流 不知所届
 訓読:譬へば彼の舟の流れて 届(いた)る所を知らず
 翻訳:喩えてみれば小舟が流れて どこに至ったかわからないようなもの――『詩経』小雅・小弁

届は「凷カイ(音・イメージ記号)+尸(限定符号)」と解析する。凷は塊の異体字とされている。土を詰め込んだ図形でもって土のかたまりを暗示させる。形声の造形原理は実体ではなく形態や機能に重点を置いて、イメージを捉えて造語することである。かたまりは〇のイメージだが、部分に焦点を合わせると、「⁀」や「‿」のイメージもある。これは「曲がる」というイメージである。直進するものがある地点で曲がって方向を変えると、そのものは究極の所に到達して、それ以上は進めない。→の方向に進んでいって→|の形に到達するという意味の古典漢語がkəd(呉音はケ、漢音はカイ)であり、これを届で表記する。凷は「曲がる」というイメージ、これから「つかえて進めない」というイメージに展開する。尸は人体や人に関する限定符号である。届は人がこれ以上は行けない究極の所に至る情景を暗示させる図形である。
なお「とどける」に用いるのは日本的展開である。