「拐」

白川静『常用字解』
「形声。もとの字はおそらく掛で、卦カの音の字であろう。古い辞書には見えない字で、唐代以後に作られた字であろう。誘拐のように使う」

[考察]
拐はもともと掛と同字というが、証拠がない。全く億則である。
拐は枴カイから派生した語である。枴は足の悪い人が歩行に使う杖(松葉杖のようなもの)である。その機能や形態から語のイメージが取られる。杖に視点を置くと「Y形に支える」というイメージだが、脇に視点を置くと「⁀形にはまり込む」というイメージである。「⁀」は「曲がる」「彎曲する」というイメージである。だから「(歩行の困難な人や老人の)杖」の意味から「曲がる」「彎曲する」という意味が派生する。この動詞を表すのが「拐」である。
更に意味が転じた。曲がった方法で人をだます、あるいは、わなにはめて人をだますという意味が生じた。これが誘拐の拐(人をだまして金品を奪う、人をだまして連れ去る)の使い方である。
字源はまず「冎カ(音・イメージ記号)+木(限定符号)」を合わせた枴が成立する。枴の右側は別の左側と同じで、冎が変わったもの。冎は骨に含まれ、関節の片方の骨である。一方の骨の穴に別の骨がはまって関節が構成されると、古人は考えた。二つの骨がはまり込んでかみ合い、くるくる回る運動の機能が生まれる。冎や、それから派生する骨・咼は「丸く回る」「丸い穴」というイメージを示す記号になる(129「過」、599「骨」を身よ)。ここから「(丸く)曲がる、彎曲する」というイメージに転化する。かくて老人の脇を⁀の形に支える杖を意味するkuaiという語を枴で表記する。後に「彎曲する」という意味に転じた際、木偏を手偏に替えて拐の字ができた。またこれが誘拐の拐となった。宋代の文献に初出。
なお拐の右側は別の左側と同じだが、常用漢字表ではわずかに字体が違う。拐では「口+刀」になっている。字体を統一しないと混乱する。