「界」

白川静『常用字解』
「形声。音符は介。介は体の前後に甲(よろい)をつけて武装した人の形である。それで介には身を守りたすけるという意味と、他をへだてるという意味がある。このへだてるの意味を田畑に及ぼして、界は田畑を区切って分ける“さかい” の意味となる」

[考察]
介になぜ「他をへだてる」という意味があるのだろうか。武装した人→身を守るという展開はわからいでもないが、武装する→敵と対峙する→他をへだてるという意味になるのだろうか。意味の展開がわかりにくい。
漢字は実体にこだわると袋小路に入ることが多い。意味の展開も説明がつかない。そもそも介を「よろいをつけて武装した人」を描いた象形文字と見るのが疑問である。 
『説文解字』が「八+人」に分析したのが妥当である。 人の両側に「↲↳」の符号をつける図形によって、「(両側・左右に)二つに分ける」というイメージを表す(145「介」を見よ)。人という実体にこだわる必要はない。単なる象徴的符号と考えればよい。図示すれは←|→の形である。中心から両側に左右反対向きに分けるというイメージである。視点を変えると、→|←の形、すなわち左右から中心をはさむというイメージにもなる。これはイメージ転化である。言葉の意味はイメージ転化によって、意味が展開することが多い。上に出た「へだてる」の意味は←|→のイメージが具体的文脈で実現される。ちなみに介在の介、介抱の介は→|←のイメージ、すなわち両側からはさむのイメージ、両脇から中心のものに働きかけるのイメージから生まれた意味である。
界は古典で「さかい」の意味で使われている。字源は「介(音・イメージ記号)+田(限定符号)」と分析できる。介は←|→のイメージを表す記号である。 したがって界は田と田を分ける線、さかい目、境界線を暗示させる。ただし界の意味はただ「さかい」であって田とは関係がない。限定符号とはその語の意味が何と関わるか(意味領域)を指定する働きと、意味を暗示させるための意匠(図案、図形)を作る際、場面・状況・情景を設定する働きがある。限定符号の田は「さかい」を暗示させるために具体的情景を「たんぼ」の場面に設定したものである。こんな限定符号は意味素に入らない。