「絵」
正字(旧字体)は「繪」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は會。會はいろいろな食料を集めたごった煮の鍋をいう字であるが、そのように多色を使って美しい色織りを作ることを絵という。もと織物の文様・模様をいうが、のち“え、えがく”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説は形声文字も会意的に説くのが特徴である。Aの形の意味とBの形の意味を合わせたものをCの字の意味とする。會(いろいろな食料を集めたごった煮の鍋)+糸=繪、そのように(いろいろな食料を集めたごった煮の鍋のように)、多色(の糸)を使って美しい色織りを作ること、と意味を導く。
白川漢字学説はほかにこんな特徴がある。①実体(本項ではAの鍋とBの糸)を重んじ、そのまま意味に加える。ただし本項ではさすがに鍋はCの意味に加えないだろう。色糸は意味に加えているようである。②構成の記号(AとB)を同列・同等に見る。Aは音符、Bは意符であるのに、AとBをのっぺらぼうにプラスして意味を取る。
形の解釈をそのまま意味とするのが白川漢字学説の最大の特徴である。その結果、図形的解釈と意味が混同され、意味に余計な意味素が混入する。意味とは形から来るものではなく、言葉に内在するものである。古典における文脈で実現させるものである。文脈がなければ意味は取りようがない。繪の意味は古典の用例を調べることによって判明する。図形から導く必要はない。意味をどう図形に表したかを検討するのが字源の役割である。

音符や意符は従来の文字学の用語である。しかし音符は音を表す発音符号ではなし、意符は意味を表す符号ではない。漢字は音素のレベルに掘り下げる文字ではなく、記号素止まりの文字である。だから音素を表す発音符号は存在しない。ただ記号素の読みを暗示させる記号が存在するだけである。しかもこれは正確に記号素を再現するものではない。重要な役割は、記号素の音を暗示させつつも、記号素の意味のイメージを暗示させることである。したがって筆者は音・イメージ記号と呼んでいる。また、意符は意味と直接関係するのではなく、語の意味領域を指定するだけである。だから筆者は限定符号と呼んでいる。

繪は「會(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。會と糸はレベルが違う記号である。會は語のコアイメージを表し、限定符号は語の意味がどんな領域と関係があるかをを限定する。意味と関わるのはむしろ音・イメージ記号である。會は「多くのものが一か所に集まる」「多くのものを集める」というコアイメージを示す記号である(148「会」を見よ)。繪はいろいろな色の糸を集めて模様を描き出す情景を暗示させる。しかしこんな意味を表すのではなく、意味はただ「え(painting)」である。「繪」という図形はその意味を暗示させるために考案された意匠に過ぎない。図形から意味が出るのではなく、意味を図形に表すのである。図形的解釈と意味は同じではない。