「塊」

白川静『常用字解』
「形声。音符は鬼。鬼は大きな頭をもつもので、大きなものという意味がある。土くれの大きなものを塊といい、“土くれ、かたまり” の意味に用いる」

[考察]
形から意味を引き出すのが白川漢字学説の特徴である。鬼は亡霊(死者の魂)という意味で、その転義として、得体の知れない化け物、人知を超えて計り知れないものという意味があるが、「大きい」という意味はない(『漢語大字典』「漢語大詞典』にもない)。塊は「土くれの大きなもの」という意味ではなく、ただ「土くれ」である。
塊は次のような用例がある。
 原文:乞食于野人、野人與之塊。
 訓読:食を野人に乞ふに、野人之に塊を与ふ。
 翻訳:[重耳が]百姓に食べ物を無心すると、百姓は彼に土のかたまりを与えた――『春秋左氏伝』僖公二十三年

塊は土のかたまりの意味であることは明らか。これを古典漢語ではk'uər(呉音ではクヱ、漢音ではクワイ)といい、視覚記号としては塊と表記する。塊はどうして考案されたのか。ここから字源の話になるが、字源は語源と密接に絡む。語源を究明しないと字源も分からない。
日本語の「かたまり」は「固む」の活用形で、質に着目して生まれた語である。しかし漢語のk'uərは質ではなく、形態・形状に着目したものである。これを明らかにしたのは藤堂明保である。藤堂は鬼のグループ(鬼・塊・魁など)は回・怪・懐・骨・群・昆などと同源の単語家族を構成し、KUÊT・KUÊR・KUÊNという音形と、「丸い・めぐる・取り巻く」という基本義があるとしている(『漢字語源辞典』)。
塊は「丸い」というコアイメージをもつ語で、同じコアイメージをもつ鬼という記号を利用して、「鬼(音・イメージ記号)+土(限定符号)」を合わせた塊によって「(土の)かたまり」を表そうとしたのである。鬼はなぜ「丸い」というコアイメージをもつのか。これは古代人の亡霊に対するイメージから起こったもので、頭が目立って丸くて大きな形を想像したようである。このイメージを「鬼」という図形で表現した。「田」の部分が丸くて大きな頭、「儿」の部分が両足である。上体にだけ焦点を当てて「丸くて大きい」というイメージを「鬼」で表したのである(275「鬼」を見よ)。「丸い」や「大きい」はイメージであって、意味ではない。意味とは実際の文脈で使われる際に現れるものである。鬼は亡霊というのが意味である。亡霊と「かたまり」は語の表層レベルではつながりがないが、深層構造では「丸くて大きい」というコアイメージでつながっているのである。