「壊」
正字(旧字体)は「壞」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は褱。褱は衣の中に眔(目から涙が垂れている形で、涙の意味)を加えている形で、死者の衣の襟もとに眔を注いで、死者を懐かしみ懐う死別の儀礼をいう。土は社のもとの字であるから、神社に涙を注ぐ儀礼が行われたことを示す。また褱に攴(打つの意味)を加えた字形があり、これは氏族あるいは地域の守護神を祭る社を破壊することを示すものであろう。これによって、何かの事情があって住む地を去るとき、守護神を祭る社をとりこわす儀礼が行われたと考えられる。それで壊には“やぶる、やぶれる、こわす、こわれる”の意味がある」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がないので、すべての漢字を会意的に説く特徴がある。A+B=Cの場合、Aの形の意味とBの形の意味を組み合わせたのをCの意味とする。図形的解釈をストレートに意味とする。本項では
 a褱(死者の衣の襟元に涙を注いで、死者を懐かしみ懐う死別の儀礼)+土(社)→神社に涙を注ぐ儀礼
 b褱(死者の衣の襟元に涙を注いで、死者を懐かしみ懐う死別の儀礼)+攴(打つ)→氏族あるいは地域の守護神を祭る社を破壊する→何かの事情があって住む地を去るとき、守護神を祭る社をとりこわす儀礼→やぶる
aとbの二通りの字源を提示しているが、aは「やぶる」と何の関係があるのか不明。bは土を攴に替えるが、なぜ社をとりこわす儀礼の意味になるのかよく分からない。
いったい住む土地を去る時に神社を取り壊すという事態があるのだろうか。文字の形から無理に引き出した宗教儀礼としか考えられない。「であろう」とか「考えられる」という説明から判断すると推測の域を出ないようだ。古典に根拠のない儀礼から文字の意味を導いていると言わざるを得ない。
壊は古典にどんな使い方をされているか。それを確定するのが先である。次の用例がある。
 原文:宗子維城 無俾壞城
 訓読:宗子は維れ城なり 城をして壊(こぼ)たしむる無かれ
 翻訳:王の子どもは城になる 城をがらがらに壊してはだめ―『詩経』大雅・板

壊はまとまったもの(統一体)がぼろぼろに崩れてこわれるという意味で使われている。組織の内部に穴や亀裂が入って、形が崩れることを壊という。古典では「壊は毀(物をばらばらにしてこわす)なり」とある。潰滅の潰(組織体が秩序を失って崩れる)とも近い。壊・毀・潰は同源の語と考えてよい。
壞は「褱カイ(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。褱は「衣+眔(なみだ)」を合わせて、涙を衣で包む状況を暗示させる。これによって、「丸い、めぐる、取り巻く」というイメージをもつɦuərという語を表す記号とする。これは回・囲・鬼(塊・魁)・運・昆などと同源である(藤堂明保『漢字語源辞典』)。「丸い」「取り巻く」を図示すれば〇の形である。これは「穴」のイメージに展開する。このように褱は「丸い」「丸く取り巻く」というイメージと「穴」というイメージをもつ記号である。したがって、土で築いたものの内部に穴が開いて形が崩れる情景を「壞」の図形で暗示させた。