「劾」

白川静『常用字解』
「形声。音符は亥。力は耒(すき)の形。この字を弾劾の意味に使うが、劾の字形からはその意味を導くことはできない。劾はおそらく㱾(亥を殴ってその祟を祓う儀礼、おにやらい)を誤った字形であろうと思う。弾劾とは弓の弦を鳴らして悪邪を逐い、呪霊のある獣を殴ってお祓いをするという意味」

[考察]
白川漢字学説は形声を説明する原理をもたない。しかも力を耒(すき)とするので、劾の解釈ができない。そのため劾を㱾の誤字とした。
劾は先秦の古典に存在する字で、㱾の誤字ではない。次の用例がある。
 原文:文劾不以私論。
 訓読:文もて劾し、私を以て論ぜず。
 翻訳:法律の条文に基づいて弾劾し、自分勝手な考えで論じない――『管子』君臣

劾は罪を厳しく問い詰めるという意味で使われている。
「亥(音・イメージ記号)+力(限定符号)」と解析する。亥は獣の骨格の図形である。骨格という実質に重点があるのではなく、形態や形質に重点がある。形態からは「全体に張り詰める」というイメージ、形質からは「ごつごつと固い」というイメージが取られる(181「核」を見よ)。後者は「固く引き締める」というイメージに展開する。劾は罪状を相手に突きつけて、法の力でぐいぐいと固く締めつける情景を暗示させる図形である。この意匠によって、罪人を調べて厳しく問い詰める意味の古典漢語ɦəgの視覚記号とする。