「郭」

白川静『常用字解』
「形声。もとの字は𠅷に作り、音符は𠅷。𠅷は城郭(とりで)の形で、その平面形。城郭の両端に遠くを見わたすための望楼を設置している形である。のち略して享となり、邑の省略形である阝を加えた。郭には城壁で四方を“かこう”、また中が空っぽの“かこい”という意味がある」


[考察]
郭に「城壁で四方をかこう」という意味があるだろうか。意味とは言葉の意味であり、文脈で使われる意味である。
古典では郭は次のような用例がある。
 原文:三里之城、七里之郭、環而攻之不勝。
 訓読:三里の城、七里の郭、環(めぐ)りて之を攻めて勝たず。
 翻訳:三里の大きさの城、七里の大きさの外囲いは、取り囲んで攻めても勝てない――『孟子』公孫丑下

古典漢語では城(都市)の外側を囲う垣や壁のことをkuakといい、郭と表記した。日本語では「くるわ」という。「くるわ」とは「城または砦などの周囲にめぐらして築いた、土や石の囲い」の意味という。これは漢語のkuakと同じである。郭のコアイメージは「外枠で(空っぽな所、内部を)囲む」である。外枠にポイントがあるので、輪郭の郭のように「外枠」という意味に展開する。
字源はまず𠅷が考案された。𠅷は上下対称形になっている。清朝の段玉裁(『説文解字注』の著者)によれば、真ん中の回(◎)は内城と外廓の形、上下の「亠+▭」、およびその逆形は内城と外廓の両亭が相対する形である。これで「くるわ」を暗示させるが、後に限定符号の邑(村・町・都市などと関わりがあることを示す符号)を添えて郭となった。だから成り立ちは「𠅷(音・イメージ記号)+邑(限定符号)」と解析する。
なお享は享楽の享や、敦・淳・熟・塾などに含まれる享とは別字である。