「閣」

白川静『常用字解』
「形声。音符は各。各には格のように、からまってものをさえぎる、止めるの意味がある。閣には門の両脇に杭を立てて横木を渡し、通行を止めるの意味がある。高殿の構造の建物を楼閣という。“たな、たかどの、ごてん ”の意味に用いる」

[考察]
「各」の項では「各は祝詞を供えて祈り、神の降下を求めるのに応えて、天から神が降り来ること、すなわち“いたる” 」の意味とあり、「からまってものをさえぎる、止める意味」は見当たらない。また、閣には「通行を止める」という意味はない(『漢語大字典』『漢語大詞典』)。また、「通行を止める」の意味と「高殿の構造の建物」とのつながりがはっきりしない。また、なぜ「たな」の意味なのかも分からない。
形から意味を求めるのが白川漢字学説の特徴である。ここでは言葉という視点が抜け落ちている。まず言葉から出発する必要がある。

閣は最初はどんな意味であったか。『爾雅』に「扉を止むる所以、之を閣と謂ふ」とあり、扉止めの意味であったようである。「ようである」といったのは古典の実例が見つからないからである。しかし多くの古字書や注釈では扉止めの意味があったとしている。門の扉を開く際に扉が行き過ぎないように固定するもの(石や木のくいなど)である。これを古典漢語でkakといい、閣と表記する。閣は「各(音・イメージ記号)+門(限定符号)」と解析する。各がコアイメージを表す基幹記号である。各は「固いものにつかえて止まる」というのがコアイメージである(176「各」を見よ)。扉止めはまさにこのイメージをもつ物である。各のコアイメージを図示すると→|の形である。|の部分に焦点を置いたのが扉止めの意味である。「固いものにつかえて止まる」というイメージは「固いもので支えて(動かないように)止める」というイメージに転化する。
意味はコアイメージによって展開する。動かないように支えて止めるというイメージから、食物などを支えて止めておく所(たな)の意味に展開する。ここから、険しい山の斜面を通行するために木を組んで足場を支えるもの(かけはし)の意味を派生する。また、器物や書物などを収蔵するため台脚で支えた建物(書庫)の意味が生まれる。ここから、高い建物(たかどの)の意味、さらに、行政の中枢となる役所の意味に展開する。最後の意味が内閣の閣である。