「獲」

白川静『常用字解』
「形声。音符は蒦。蒦の古い形は隻で、隹を又(手の形)で捕らえている形で、獲のもとの字である。もとは鳥をとるの意味の字であるが、犬( 犭)を加えて、猟犬を使って動物を狩りするという意味にも使うようになった」

[考察]
形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。言葉という視点は全くない。隹を含むから「鳥をとる」という意味が最初の意味としている。図形的解釈と意味を混同している。
獲は古典でどのように使われているかを調べる必要がある。
①原文:躍躍毚兔 遇犬獲之
 訓読:躍躍たる毚兔ザント 犬に遇へば之を獲(え)ん
 翻訳:飛び跳ねるずるい兎も 犬に会ったらつかまるよ――『詩経』小雅・巧言
②原文:我思古人 實獲我心
 訓読:我古人を思ふ 実(まこと)に我が心を獲たり
 翻訳:私は古いなじみ[元の妻]を思い出す 本当に私の心をとらえていた――『詩経』邶風・緑衣

①はえものなどを捕まえる意味で使われている。②は比喩的な使い方である。別に「鳥をとる」 とか「猟犬を使って狩りをする」という意味ではない。つかまえるものはえものであって具体的なものに限定されない。
言葉の視点から語源を探求したのは藤堂明保である。藤堂は獲・穫は郭のグループ(郭・廓・槨)、黄のグループ(広・拡・横)、攫、匡のグループ(匡・筐)などと同源で、「枠、枠で囲む」という基本義があるとしている(『漢字語源辞典』)。手で枠を作り、その中に物を入れ、枠で囲むような取り方を古典漢語ではɦuăk(呉音ではワク、漢音ではクワク)という。この聴覚記号を視覚記号に切り換えたのが獲である。
獲は「蒦(音・イメージ記号)+犬(限定符号)」と解析する。蒦は「雈+又」と分析する。雈は舊(=旧)に含まれ、ミミズクを表す。 又は手の形。図形からはミミズクを手で取る(つかまえる)という情報しか得られない。しかしそんな意味を表すのではなく、ɦuăkのコアイメージ「枠の中に入れる」「枠で囲む」というイメージを表す記号とする。手で物をつかむ際は、手や腕を枠の形にしてその中に入れるので、このイメージを蒦で表現しうるのである。ミミズクという具体物は捨象してただ「枠で囲む」というイメージだけが取られる。
犬という限定符号は再び具体的な場面に設定しなおして、えものなどをつかまえるという意味を実現させるための意匠作りであり、このようにして獲が生まれた。この場合も犬は捨象されて、ただ「えものをつかまえる」という意味を表すのであって、「犬を(あるいは犬を使って)つかまえる」という意味ではない。意味とは文脈に実現される語の使い方である。意味は上記の古典の用例で分かる。